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大学の実験棟の廊下から見る外は、宵の闇が広がっていた。
昼間は紅葉に染まる木々が秋を教えてくれているが、今は心許ない外灯が辺りを照らすのみだ。
楊は廊下の窓を開け、身体を少し乗り出すと外の冷たい空気を吸い込んだ。
冷気を取り込んだ事で循環する血液の温度が少し下がったような心地よさを覚えた。
頭がスッキリとクリアになったような気がした。
実験テーマを数々提起しておきながら、それをそのまま後輩達に丸投げしてしまったツケは想像以上だった。
今朝、楊が時には大わらわだった実験室が落ち着くのに夜更けまで掛かった。
「ちょっと外の空気を吸ってくる」と言って出て来た楊は、滉からのLINEに眉を潜めた。
滉からのメッセージの内容は、美夕を安全な場所に隠す為に兄貴からマンションを借りた、というものだった。
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