帰還

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帰還

 それから祖国の基地に帰ったのは夕方だった。私はその時になっても興奮が収まらなかった。誰かに、なにより昨日の彼に、私の戦果を聞いて欲しかった。  基地に戦闘機を停めると、せわしなく働いていた人々が驚いた顔で私を見上げる。それもそのはずだ。部隊行動を常としているのに、一人で帰ってくるなんて尋常じゃない。疲労困憊の私を見て、別の隊の上官が私に声をかける。 「報告はできるか?」 「だ、大丈夫です、わ、私の隊は…帰還途中に一機の敵兵に襲撃され、戦死しました」  私の報告に周囲からざわめきが起きる。 「し、しかし、そいつは、私が、ころ、殺しました!私が!あの、黒い…敵の機体は間違いありません!確かに奴でした!」  どもりながら報告する私の肩を上官が叩く。 「よくやった」  その一言でようやく興奮が落ち着いてきて息を整える。私は気になっていたことを尋ねた。 「私と同じ方向から帰還した人はどこですか?別の隊の方だと思うのですが」  その言葉に上官が眉をひそめる。 「いや、君だけだ」 「え?」 「帰還したのは君だけだ。昨日から本日にかけて、同じ方角に飛んでいた機体もない」 「で、でも私は昨日、無線で誰かが歌うのを聞いたんです」  どういうことだろう。昨日確かに私は人の声を聞いたのだ。上官が重苦しく口を開く。 「その人物は、本当に我が国の同胞だったのか?」  上官の質問の意味が理解できない。  だって、彼は私を励ましてくれたのだ。幽霊なわけがない。  どこの子守歌かわからないけれど、私の知らない、言葉、で…?  私の知らない言葉って、なんだ?  それって…敵国の言語だったんじゃないか?    あの時と今日近くにいたのは……私以外の一機で……今日会った一機は………私が撃墜した一機しか……あれ?  喉の奥が引きつる。 「そ、そんなわけ、ないですよ。だって、敵がどうして明日殺そうとしている人間に、歌なんて励ますような………あ」  私は気づいてしまった。
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