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「ああああああああああああああああああああああ!!」
私はあらん限りの声を上げて、周囲が止めるのも聞かずがむしゃらに走った。
敵兵は、鬼のような奴で人の痛みなんかわからないって!言ったじゃないか!先輩たちはみんなそう言ってた!ラジオでも新聞でも鬼畜の所業を見せつけられてきた!
操縦席に座っていたあの姿が、人間以外のなんだったっていうんだ?
私は何を殺したんだ?
私は、何を殺したんだ?!
自分の足がどこに走っているのかもわからない、どこにいけば許してもらえるかもわからない。
見上げた先に青空が見える。私が彼を殺した場所だ。
とても見ていられなかった。
「俺は悪くない!仕方なかった!どうしようもなかったんだ!」
昨晩聞いた歌声が絞めた鶏の断末魔のように頭の中に響く。周囲の人間が急に錯乱した私の肩を掴んで落ち着かせようとする。
「…許してくれ…」
仲間を見捨てた。恩人を殺した。それでもなお自分が許されることばかり考えていた。
そんな自分が、一番許せなかった。
卑怯者で愚か者の私だけが生き残ってしまったことを、私が許せなかった。
錯乱する私の耳に、遠くのラジオから祖国の首相が敗北宣言をする声が届いた。その周りで仲間たちが沈痛な面持ちでうつむいている。
生きる意味も無くなったことを知った。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
私は、二度と空を見上げることはできないだろう。その資格はもうない。
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