敵襲

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敵襲

 私が最後に殺人をした日の前日、私たちの部隊は二日かけて祖国へ帰るところだった。辺り一面なにもない海の上を飛んでいた時にそれは起こった。  私と仲間たちは予定通りの空路を順調に飛んでいた。しかし、大きな雲の中から出た時、私の隣を飛んでいた戦闘機が激しい爆音をたて、黒煙を上げながら青い海に落ちていった。  敵国の戦闘機に襲撃された。雲に隠れ後ろにつけられたとすぐに分かった。すぐさま私は操縦桿を思い切り傾け、高度を落とし射線から逃れる。  この戦闘機に機銃は前面にしかついていない。空中戦で後ろを取られたら死ぬしかない。先輩からそう言われたことを、その先輩が撃たれて空に投げ出されたのを見て実感していた。  敵はどうやら一機だけのようだが、後ろから聞こえる発射音は確実に私たちを一機、また一機と撃墜させた。  下は海だ。見渡す限り陸地の見えない海洋のど真ん中だ。  たとえこの高さから落ちて奇跡的に生きていたとしても、死ぬ以外の道はない。    全身の肉が端から鉛玉で削り取られて、死ぬ。  運よく弾が当たらなくても、海面に全身を叩き付けられ穴という穴から内臓が飛び出て、死ぬ。  無事に海に着水したとして、どこへ行けばいいかわからないまま海水に体温を奪われ力尽きて、死ぬ。  撃墜されたら、間違いなく死ぬ。  私は全身がこわばるのを無理やり動かしてとにかく逃げ続けた。  背後から飛んでくる銃弾が私を粉々にされる光景が脳裏に浮かぶ。 (当てるな、死にたくない!)  仲間の誰かが奴の後ろを取ろうと速度を落としたところで、翼を撃たれ機体を回転させながら落ちていった。あの操縦席でどんな悲鳴を上げているのかは考えたくなかった。  情けないことに私は反撃しようとも思わなかった。仲間が敵兵に追い回されているのを幸いに、必死にその場から離脱した。  その薄情のツケが来たのだろう、目的地である中継基地についたとき、太陽がぎりぎり沈まない時刻であり、生きていたのは私一人だった。  私がそのことに気づいたのは無我夢中で基地に機体を着陸させ、涙と汗で顔をぐちゃぐちゃにしながら仲間の姿を探した時だった。  私は、祖国から遠く離れた何もない中継基地で一夜を明かさなければならなくなった。
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