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一晩の友
私は、日が暮れる前にランタンをつけ、部屋の隅で味のしない缶詰を開けた。
この小さな基地には必要な最低限のものしかない。森ばかりの小島を開発する余力は今の祖国にはなかった。戦線維持から見るとあまり要所ではない場所なのだ。
温かい寝床などあるはずもなく、硬い板でなんとかベッドの体裁を整えている。
そんな場所で寝付けるはずも無かった。
私は一人、暗い部屋の中で明日のことを考えていた。
燃料はある。機体の整備は一人でもできる。予定通りに飛べば祖国へ帰れる。
しかし、予定通りに飛んでいいのだろうか?
今日のように敵兵が雲の中から現れるのではないだろうか。
私は黒い鉄の翼で雲を薄く切りながら出現したあの悪魔を思い出して身震いした。
(くそ!)
そんな自分が情けなくて、自分の太腿を強く叩いた。
空に投げ出された先輩は、軽口の多い人だった。何度も励まされた。
機体ごと粉々になったのは信頼できる同期だった。辛い訓練を一緒に乗り越えてきた。
あの回転する機体の中で酷い目にあっただろう後輩は、まじめな子だった。田舎にいる母親の話ばかりだった。
他にも仲間がたくさんいた。
だが、私は一人でここにいる。…全て見捨てて逃げてきた。
強い風が吹きつけては木でできた窓枠をガタガタと鳴らす。
私は外の様子を窺おうとして、窓に映る血まみれの兵士と目があった。
私は悲鳴をあげ窓から離れた。
その際に机にぶつかった。椅子につまずいて転んだ。わけのわからないことを喚きながら立ち上がって、今度は手拭きに足を滑らせた。混乱して手足がもつれた。
私はとにかく臆病者だった。
だからこそ生き残れたのかもしれない。
だからこそ、孤独に一夜明かすのは特に恐ろしかった。
幽霊などというものは馬鹿にしていた。それでも半日前に次々に死んでいった仲間たちが家の外にいるような気がしてならない。
そんなわけがないと何度言い聞かせても、閉じた扉の向こうにうらみのこもった目の仲間たちがありありと想像できる。
なぜ敵と戦わなかったのか。なぜ見捨てたのか。誰もが私の臆病を責めている。
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