マスク

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マスク

 彼がマスクを外した姿を誰一人として見たことがなかった。一時期マスクマンと呼ばれていじめられていたが、それでもマスクを外したことはなかった。  給食を食べる時も必要最低限マスクを肌から離して食事を口へ運んでいた。他にもマスクを外すようなことは全て避けているようであった。  小学校の頃から彼のことを知っている3人は彼が高校になってもその調子だから、マスクの下が気になって仕方がなかった。彼は積極的ではないが、優しく思いやりのある性格だ。顔立ちも悪くないと思われるし、爽やかな雰囲気で女子からも人気がある。  おそらく、そういうことも相俟って3人はマスクを外してやろうと思ったのだ。好奇心は嫉妬に変わっていたのだ。  3人はマスクの下に何かしらのコンプレックスを秘めていると推測し、このコンプレックスを知ることによって自分たちが彼よりも上であるという安心感や優越感に浸りたかったのだろう。 「ちょっと、何してるの......?」  2人がかりで彼を押さえつけ、残った1人はマスクをゆっくりと外す。制止を促す彼の言葉は無視され、マスクが少しずつ剥がされていった。  彼の叫び声が放課後の静かな校舎に響く。もう、彼の口を隠すものはなくなった。 「お、おい......。う、嘘だろ......?」  その言葉に釣られて押さえていた2人も彼の顔を覗く。3人は息を飲んだ。現実を受け入れられず、固まってしまった。彼が涙を流していることにも気づかないほどに驚いていた。  押さえていた1人がふと我に返り、身の危険を感じて一目散に逃げて行く。後の2人もそれに感化されて逃げて行った。  もう、学校に来れない。彼はそう思いながら涙を何度も拭った。落涙の数だけ思い出があった。このままずっとここに居たかった。でも、知られてしまったからにはもう無理だ。花が開花したような歪に裂けて開く口を見られたからには。  彼は次の日から学校に来なくなり、彼が怪物であるという噂が瞬く間に流れた。
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