1章 FPS少女と片腕の少年

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 この時に私が予想していた第一のチートは発動していないと間に合わない。  大抵において、この場合にあるチートは通信障害、ラグと呼ばれるオンラインゲーム特有の回線のスピードが影響し、相手の動きが遅くなったり、自分の動きが速くなってしまったりするような現象がある。  これを人為的に発生させることで、すぐに前方から後ろへと回ったのではないかというものが第一のチート疑惑だった。 「……普通のスピードね」  だが、この男のキャラは通常のスピードで動いている。  それに操作している本人から思えば、あのとき自分のキャラが遅くなったような気配なかった。  つまり第一の疑惑は晴れたということになる。 「いや、まだまだ……ここからよ」  もう一つの問題点。いや、これが最大の問題ともいえるものがある。  このあと、ユーリはリロードを途中で止め、ナイフを繰り出し、確かにこの男の心臓を貫いたはずだ。  しかし、結果ではそれはなかったことにされ、いつの間にか男は私の後ろに存在していた。  ここから考えられるのは、チートで代名詞といわれる無敵状態になったのではないかということだ。  おまけに一瞬ではあるが、透明人間状態になれるチートも使用しているのではないかと疑っている 「さあ、それもすぐに分かることよ!」  画面はすでに問題の場面になろうとしていた。  ユーリがナイフを繰り出し、男がそれを確かに受けていたように思えた。  私はこのゲームを熟知している。あの距離であればナイフが届くギリギリの位置だと把握していたはずだ。  しかし、男はそのナイフに当たったように思えない。  確かによくは見えなかったが、あの突き刺した瞬間に一瞬だが何かの違和感があった。  その答えを証明するように男は一瞬であるが視界を下のナイフの方に映す。 「ひ、引いている?」  そこには男が後ろに少し後ずさり、ナイフの刃先が男の身体にギリギリ届いていない状態の場面だった。 「そ、そんな!?」  信じられないことはそれだけではない。  その瞬間に男はまるでダンスするかのようにくるりと横に回転して、突き出た腕に上手く重なるように動いていることが分かった。 「腕で視界を封じられているときに後ろに回っている……」  そのまま後ろに回ったこの男はようやく左手に携えていた日本刀を鞘から抜き、混乱状態の私のキャラを一刀両断した。
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