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立ち止まった侑さんはスーツのポケットからスマホを取り出した。なにか操作する。
そして向けられた画面には、侑さんの作成したメッセージ画面。
『すみません、体調が悪いので休ませてください』
送信ボタンを押すだけにされた、それは罪のメッセージ。
流石にどきりとした。社会人にとって、仕事をサボるというのは学校をサボるのとはわけが違うから。
でも侑さんはなんでもないようににやにや笑っている。俺が「侑さんを守る」と言ったときの、あの高校生時代の侑さんのちょっと悪い笑顔が重なった。
ああ、変わらない。このひとの本質、奔放で大胆なところはそのままだ。
そして俺も。
成長して想いの重みが変わっても、そんな侑さんを好きだという感情はあの頃と同じ。
「稔くんが『共犯者』になってくれるならね」
それなら俺の答えなんて決まっている。
迷うことなく送信ボタンをタッチした。ぴろんと間抜けな音の送信完了音。
「あーあ、こりゃ稔くんのせいだわー、アタシ悪くないわー」
にやにや笑いがさらに濃くなった。
俺はそんな侑さんの腕を掴む。ただし力を込めずに、そっと。
「責任は取りますよ。とりあえず、罪の味を食べましょう」
「おお、いいね。ちょうど百円セールやってたわ」
ちょっとドキドキしたけれど、侑さんは俺の手を振り払わないでいてくれた。
侑さんの腕を取った逆の腕で、俺はスマホを取り出した。
『すみません、体調が悪いので休ませてください』
まったく同じメッセージを入力する。即座に送信ボタンを押した。
十年待ってもらった俺は、もう立派な共犯者として認めてもらえたのだろう。
侑さんはそんな俺の顔を見て、満足げににやりと笑ってくれたのだから。
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