1章

4/5
前へ
/9ページ
次へ
そこで侑さんが買ってくれたのは、ほこほこの肉まんだった。 僕は当たり前のようにお財布なんて持っていなかった。学校にはお金を持っていったらいけないことになってるから。 だから「お金持ってきてないよ」と言ったのだけど、侑さんも昔同じ小学校に通っていたんだから知ってたんだろうな。「仕方ないなぁ。ひとつ貸しだからね」なんて侑さんは心底楽しそうに笑っていた。 公園のベンチでかぶりついた肉まんは最高においしかった。ほかほかで、お肉たっぷりで、お肉の汁がこぼれそう。 「んー、罪の味は最高だわ」 侑さんはそんなことを言って、豪快に肉まんを頬張る。綺麗な見た目なのに、侑さんはすることが大胆だ。 なるほど、こういうのが罪の味っていうのか。僕の辞書に言葉がひとつ増えた。 「共犯者って、ハンザイシャ?」 食べながら僕は聞いたのだけど、それは笑い飛ばされた。 「サボりひとつで大げさな」 「でも怒られるでしょ」 「なにを、逮捕されるわけでもあるまいに」 そんなことはいくら八歳の僕でもわかっていたけれど、なんだか胸の中に熱いものが沸いてきた。 これはチャンスだ。僕は勢いよく言った。 「侑さんが捕まりそうになったら僕が守るからね!」 「……はっ?」 真剣に、しかも重大なことを言ったのに侑さんは目を丸くした。ぱっちりした大きな目。 しかしすぐにその目はきゅっと細められた。どこか不満げに。 「肉まんひとつも買えない分際で、生意気」 「いたっ」 僕のおでこが軽く弾かれた。僕は顔をしかめてそこをさする。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加