始まりから終わり

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いつもと違う行為をしたせいか、そのグッドを意味するジェスチャーをした雲は、私の記憶に深く刻まれた。 今日も朝から晴れ渡り、眩しい日射しが頭上から容赦なく降り注いでいる。 私は、40番台の棟が建ち並ぶ、団地の中の道を、俯き加減で駅へと急いだ。 本来ならこのまま、視線を上げずに通り過ぎるところだが、ふと昨日ことが頭を過る。 いつもは手こずる作業が、驚く程にスムーズにこなせ、顔を会わすのが憂鬱な同僚と口煩い上司が揃って欠勤し、ラッシュ時の電車にも拘わらず、行きも帰りも座席に座ることが出来た、恐ろしい位についていた昨日のことが。 ひょっとしたら、この僥倖の連続はあの雲を見つけたことに起因しているのではないか。 そんな考えが頭をもたげたのだ。 私は、44号棟の壁面に視線が向かないよう気をつけながら、空を見上げた。 すると、昨日とほぼ同じ形をしたあの雲が、位置こそずれてはいるものの、昨日と同じジグソーパズルのピースの中にポッカリと浮かんでいた。 「ああ」 思わず私は声を上げた。 いくつかの直角によって切り取られた空に浮かぶ、不思議な形の雲との連日の遭遇。 これは奇貨に至る偶然なのか、それとも、この季節の気象条件下では然して珍しいことでもないのか。 今はまだ半信半疑の域を出ない。 それでも私は心の中で祈りを捧げた。     
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