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「出来たよ、桜子。運ぶの、手伝って。」
何事も無かったかの様に、言った。
彼女は少し不機嫌そうではあったものの、俺の言葉に従い、お皿やスプーンを手に取った。
「...まだ、怒ってんの?」
クスクスと笑い、聞いた。
彼女は唇をへの字に曲げて、別に、と答えた。
「なら、良かった。」
尚も笑いながらそう言うと、桜子は俺の足を、軽く蹴っ飛ばした。
「痛ぇっ!...ホント、乱暴なんだから。
まぁ、いいや。温かいうちに食べよう。」
ちょっと苦笑して、頭をポンポンと撫でると、彼女は仏頂面のまま小さく頷いた。
向き合ってテーブルに座ると、手を合わせ、湯気の上がる炒飯へとスプーンを運ぶ。
それを一口、口に含むと、ご機嫌が直ったらしい彼女は幸せそうに笑った。
そんな桜子を見て、俺の顔の筋肉もだらしなく緩む。
「美味しい?桜子。」
俺の言葉に、子供みたいに頷く彼女。
「うん、美味しい。やっぱり、大好き!」
大好き、という言葉は勿論、炒飯に向けられたモノだ。
なのにその言葉を聞き、全身の血が逆流するのを感じた。
真っ赤になっているであろう俺の顔を見て、炒飯をスプーンでかき混ぜるみたいにしながら、桜子はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「...だーいすき。」
あぁもう、腹の立つ。
さっきの仕返しに、絶対わざと言ってるだろう、コイツ。
「...ホント性格悪いよね、桜子って。」
軽く彼女の事を、睨み付けた。
桜子はふふんと笑い、またスプーンで掬った炒飯を口へと運んだ。
彼女の唇は、大きい。
そして少し分厚めなそれは、何て言うか...ちょっと色っぽい。
どちらかというと子供みたいな印象を与える彼女の全身のパーツの中で、それは少しアンバランスな感じで。
そしてだからこそ、とても目を引く。
思わず見惚れそうになり、慌てて視線を炒飯へと戻す。
そんな俺を知っているのか、知らないのか。
...視界の端で唇をペロリと舌で舐め、笑った。
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