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俺の言葉に、桜子が顔を上げる。
しかしその位置からは見ることが出来なかったのか、ソファーから起き上がり、とことこと俺の側まで歩いてきた。
そして窓の外を見て、うっとりとした表情を浮かべた。
彼女の大きく、厚い唇が動く。
「ホントだ、綺麗...。」
その表情はいつも桜子が見せる子供みたいなものとは異なり、どこかセクシーで。
俺の視線は、満月ではなく彼女に釘付けになる。
「...うん、綺麗だな。」
その言葉に彼女の大きな瞳は、戸惑った様に揺れる。
「...悟、月見てないじゃん。」
彼女の口角が、馬鹿にした様に上がる。
それから彼女はまた、リビングに戻ろうとした。
まるで俺の側から...ううん、俺自身から逃げようとするかの様に。
だから俺は彼女のほっそりとした華奢な手首を掴み、そのまま腕の中へと閉じ込めた。
弾かれた様に驚いた顔で、桜子が俺を見上げる。
その隙を逃す事なく、彼女の唇にキスをした。
「二度ある事は、三度あるらしいよ?」
クスクスと、笑う俺。
彼女はきっとこのまま怒るか、逃げ出すかすると思った。
だから笑って、冗談にして誤魔化してあげるつもりだった。
そうする事がきっと、桜子の望みだと思ったから。
なのに彼女は俺の背中に腕を回して、言ったんだ。
「...三度を越えると、数を忘れちゃいそうだよね。」
彼女の言葉を聞き、完全に俺の箍は外れてしまった。
最初は軽く触れるだけだった、キス。
でもそれは徐々に、深いモノへと変わっていった。
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