狂月

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再び重なる、唇。 でもそこで、気付いた。 ...流石に着けないでするのは、不味いよな。 まさかこんな事になるだなんて想像もしていなかった俺は、そんな物の用意をしていなかった。 「桜子、ごめん。アレ、持ってないや...。  買ってくるから、待ってて。」 幾分情けない気持ちになりながら、伝えた。 すると彼女は軽く嘆息して、それから答えた。 「部屋に、あるよ。取ってこよっか?」 その言葉に、残されていた僅かな理性が掻き消された。 「...部屋に、あるって。  それ使う様な事、誰としたんだよ。」 自分でも驚くくらい、冷たい声が出た。 付き合っている訳でも、きちんと好きだと言われた訳でも無いというのに、我ながらなんて自分勝手な独占欲。 彼女は呆れた様な顔をして、それからにんまりと、いつもの様に意地の悪い笑みを浮かべた。 「...誰とだと、思う?」 優しくしたいと、誰よりも大切にしてあげたいと、思っていた。 俺は好奇心から、高校生の時、少しの間だけ付き合った女の子と経験した。 そしてそのあともそういう事を、何人かの女の子と繰り返した。 でも桜子はそういう経験、全くない物だと思い込んでいた。 実際問題、義母さんにも、誰か桜子に似合ういい人はいないかと、相談されていた程だ。 嫉妬心から、また彼女の唇を奪う。 先程以上に激しく乱暴なそのキスに驚いたのか、桜子は身を捩り、逃げようとした。 でも俺は彼女の後頭部をしっかりと押さえ、そのまま執拗に続けた。 が、しかし...。 ガッ、と額を押さえ付けられ、力技で顔を離し...そして彼女は言った。 「街中で、配られてたのよ。  性病撲滅キャンペーンかなんかで。」 その言葉にホッとして、彼女の華奢な体を強く抱き締める。 そんな俺を見て彼女は、くくっ、と可笑しそうに笑った。 そのまま彼女の手を引き、桜子の部屋へと向かった。 彼女が机の引き出しの奥の方をごそごそと漁ると、鮮やかなショッキングピンクのパッケージのそれは、出てきた。 そしてそのけばけばしい包みの避妊具を俺に手渡すと...。 「初めてだから、優しくしてねぇぇえん♪」 ふざけた調子で、媚びた声で言われた。 本当に、なんてろくでもない女なんだろうと思う。 ロマンチックさの、欠片もありゃしない。 「あぁ、嫌ってくらい優しくしてやるよ。  ...だからもうお前、少し黙っとけ。」
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