145人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいまー。」
金曜の、夜の八時過ぎ。
仕事の関係で近くまで来たから、約一ヶ月ぶりに実家へ帰省した。
事前連絡なくふらりと立ち寄ったせいか、玄関の鍵が掛かっていたし、返事も無い。
「なんだよ、誰も居ないのかよ...。」
リビングのドアを開き、中へ入ると、電気の付いていない部屋の明かりを、手探りでつけた。
ネクタイを緩めながら、ふとソファーに目をやるとそこには、タンクトップにショートパンツなんていう格好で大口を開けて眠る、小柄な女の姿。
「うぉっ、ビビったぁっ!!
ったく、相変わらずだらしねぇなぁ...。
風邪引くぞ。」
居ないと思っていた人間の存在に、思わず声を上げた。
すると彼女はビクッと飛び上がり、寝惚け眼で俺を見上げた。
「んぁ...?」
間抜け面のまま、知性の欠片も感じられない、言葉にもならない声を発した。
大きいけれど、人よりちょっと離れている瞳。
分厚く、大きな唇。
高いとは言い難い、ほんの少しだけ上を向いている鼻。
真っ黒なショートカットは伸びかけで、お風呂上がりなのであろう今は、少し目に掛かってしまっている。
身長は彼女は150センチだと言い張っているが、恐らくそれには2センチ程満たないんじゃないだろうか、と思われる。
そして、この女。
性格も、決していいとは言えない。
意地が悪く、口も悪く、天の邪鬼で我が儘で。
...うん。悪いところを挙げれば、キリがない。
この残念過ぎる人が俺の義理の姉であり、長年の想い人...桜子だ。
最初のコメントを投稿しよう!