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俺の腕の中。
くたりと体を弛緩させ、裸のまま肩で息をする桜子の姿。
「...可愛い。」
思わずそう呟き、力任せに抱き締めた。
「痛いっ!
悟は馬鹿力なんだから、ちょっとは加減しろっ!」
桜子は大袈裟に騒ぎ立て、思い切り俺の腕をつねり上げた。
「...ごめん。」
謝罪の言葉を述べながらも、表情筋が自然と緩む。
...そして感じる、桜子の、鋭い視線。
「謝りながら、ニヤニヤするなっ!
...それとホント、抱き締める力、強過ぎ。」
尖らされた唇は、とてつもなく可愛くて。
尚も笑いながら、キスをした。
「仕方ないじゃん。
...だって桜子が、俺を好きだとようやく認めてくれたんだから。」
言いながら、もう一度強く抱き締めた。
彼女は大きな溜め息を吐き、それからいつものように意地の悪い笑顔を浮かべ、言った。
「そうだっけ?覚えてなーい。」
...本当に、この女だけはっ!!!
素直じゃなくて、天の邪鬼。
でももう、分かってしまったから。
桜子も俺の事を、好きで堪らないって事を。
「大丈夫。
さっきも言ったけど、俺が覚えてるから。」
にっこりと微笑み、優しく彼女の頭を撫でる。
桜子はまた顔を真っ赤にして、『ムカツク』と小声で言って...それから俺の背中に、そっと腕を回した。
「ちゃんと、両親にも報告しないとだよな。
許しては貰えないかもだけど、諦めるつもりはないから。」
クスクスと笑いながら、言った。
すると彼女は、何だか不思議そうに首を傾げて...それから史上最強に嫌な感じで、ニタリと笑った。
...え、なんで今、そんな顔?
驚く俺を尻目に、今度は幸せそうに笑い、言ってくれた。
「うん、ありがとう。悟、大好きだよ。
...でも、もう少しあの二人には、内緒にしておこう?
なんか、恥ずかしいから。」
か、可愛いっ!!
思い切り、また抱擁してしまった。
でも彼女は抵抗する事なく、俺の腕に大人しく抱き締められていた。
我が儘で、自分勝手で、気紛れで。
グータラで、口が悪くて、性格も決して良いとは言い難い。
俺がこの、どうしようもない....だけど誰よりも愛しくて大切な女性を、手に入れた夜。
二人の事を、月だけが見ていた。
【...fin 】
※サポーター特典として、桜子視点の『刹那』公開しました。
『ニタリ』笑いの意味は、そちらで( ・∀・)
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