『ペンギン』

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今日もいた─────── ペンギン。 いつもの時間、いつもの電車にあの子はいる。 ペンギンを背負った彼女。 ペンギンったって本物じゃないぞ? え、そんなのわかってるって? ペンギンの鞄だろって? そう、ペンギンの鞄を背負った彼女だ。 でもペンギン柄の鞄とか、ペンギンのマスコットが付いてる鞄とかって普通思うだろ? 違うんだ…… ペンギンなんだ。 まるまるペンギンなんだよ。 言い方を変えよう 僕が毎日見る彼女は…… ペンギンのぬいぐるみの鞄を背負った彼女 なんだ。 最初見た時はド肝を抜かれた。 小さい子ならまだしも、その子は女子高生なんだぜ? 実にどうどうと背負ってるんだ。 髪を変な色に染めてるとか、スカートがやたら短いとかじゃない。 ペンギン以外はごくごく普通の子だった。 毎日ペンギンを見かけるから気になってきた。 毎日俺はペンギンに話しかけた。 ペンギン、おはよっ。 ペンギン、ちょっと顔すすけて来たな。 ペンギン、脇腹がほころんでるぞ。 もちろん心の中でだぞ? 声に出して鞄に話しかけるサラリーマンなんて、きしょい以外の何者でもない。 ペンギンに会うのは、毎日のささやかな楽しみになっていた。 よっ、ペンギン、今日も会ったな。
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