星星星

10/12
前へ
/12ページ
次へ
「タバコ、やめたの?」 「うん。やめた。結衣は?」 「私も。やめた」 「そうなんだ。結局かっこつけだよね、あれ」 「ほんとそう。それ」 短い会話。火をつけたらパッと燃えて消えてしまいそう。 運転の疲れもあってか、すっと目を閉じてしまうと、身体がベッドに吸い込まれてしまいそうになる。私は誘われるようにして、呼吸が深くなった。 意識が浮いたり沈んだりを繰り返す。 まどろみの中で、やがてナツメが私の身体の上に乗っかってきた夢を見た。 軽く口づけをして、昔みたいに、ほおをこすりあって。 首筋の匂いを嗅いで、昔みたいに。 昔みたいに、昔みたいに。 昔、みたいに。 私は夢の中で目を覚ました。 茨の道で怪我をしながら、一生懸命、ナツメを抱き締めた。 首筋の匂いを嗅いで、昔みたいに、胸元に顔を埋めた。 でも、不安で、不安で、何度も彼の顔を確認する。 何度も髪の毛を撫でた。 両頬を両手で持って掴んでみる。張りがなくて、滑りが悪い。疑ってしまう。 あれ、ナツメ。あなたほんとに、あの日と同じナツメなの? 知らない人のにおいがするよ。 「だめだ、出来ない」 ナツメの声で、私はほんとうの世界で目が覚めた。 乱れた髪のナツメが、神妙そうな顔つきで、私のこと、見ている。 「結衣、変だよ」 「なにが?」 「お前、知らない人間のにおいがする」 ナツメも同じことを思っていた。 私たちは灰になった心を互いに見つめ、手を離して、距離を取る。 風化したナツメを見つめた。 言葉が出ない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加