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「タバコ、やめたの?」
「うん。やめた。結衣は?」
「私も。やめた」
「そうなんだ。結局かっこつけだよね、あれ」
「ほんとそう。それ」
短い会話。火をつけたらパッと燃えて消えてしまいそう。
運転の疲れもあってか、すっと目を閉じてしまうと、身体がベッドに吸い込まれてしまいそうになる。私は誘われるようにして、呼吸が深くなった。
意識が浮いたり沈んだりを繰り返す。
まどろみの中で、やがてナツメが私の身体の上に乗っかってきた夢を見た。
軽く口づけをして、昔みたいに、ほおをこすりあって。
首筋の匂いを嗅いで、昔みたいに。
昔みたいに、昔みたいに。
昔、みたいに。
私は夢の中で目を覚ました。
茨の道で怪我をしながら、一生懸命、ナツメを抱き締めた。
首筋の匂いを嗅いで、昔みたいに、胸元に顔を埋めた。
でも、不安で、不安で、何度も彼の顔を確認する。
何度も髪の毛を撫でた。
両頬を両手で持って掴んでみる。張りがなくて、滑りが悪い。疑ってしまう。
あれ、ナツメ。あなたほんとに、あの日と同じナツメなの?
知らない人のにおいがするよ。
「だめだ、出来ない」
ナツメの声で、私はほんとうの世界で目が覚めた。
乱れた髪のナツメが、神妙そうな顔つきで、私のこと、見ている。
「結衣、変だよ」
「なにが?」
「お前、知らない人間のにおいがする」
ナツメも同じことを思っていた。
私たちは灰になった心を互いに見つめ、手を離して、距離を取る。
風化したナツメを見つめた。
言葉が出ない。
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