0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
結婚式の余興で、ギターを弾くんだ。
久しぶりにきいたナツメの声は、そういう内容のことを、するするほどける糸みたいに話していた。
私は人の話を聞くのが嫌いなので、つらつらした糸を断ち切るようにナツメに言った。
あなたの結婚式には行かない。
するとナツメは私に言った。
それでいいから、俺のギター、持ってきてよ。
だから私は、車の後部座席に黒いギターケースを乗せ、高速道路を走った。
フロントガラス越しに刺さる、雲の隙間の西日が眩しい。
向こうに着く頃には、すっかり日が暮れているだろう。
あの日から開けていないギターケースは、息をひそめて、しかし興奮するように、小刻みに揺れている。
私は前を行く車を追いかけるだけ。高速道路は、スピードを上げても、上げても、しょっちゅう、誰かのために止まらなくていいのが、楽だな。
ぐんぐん遠ざかる景色のように、ナツメのことを考えた。
私は音楽のボリュームを上げる。
なんとなく、なんとなくだけど、昔ナツメと一緒に弾いた曲を流している。
車内でさびしく反響するベースライン。
ナツメが覚えにくそうにしていたコード進行。
ここぞというとき、のけぞるように胸を張る癖。
サビの高いところで、ナツメはいつも声が裏返るんだ。
最初のコメントを投稿しよう！