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「昔は、朝帰るから大丈夫!とかって、よく言ってたのになあ」
コンビニの中から帰ってきたナツメは、ホットコーヒーをひとつ、運転席の窓から差し出した。私はそれを受け取って、ドリンクホルダーに入れる。
「あの頃は、学生だったから」
私は彼のために助手席のドアを開けて、片手にもうひとつのコーヒーを持つナツメを席に通した。
くたびれた様子のナツメは、身体を落とすようにどさりと勢いよく腰をおろした。はずみで、ナツメのコーヒーがはねて、しぶきがナツメの指に垂れる。
私は後部座席に置いてあるボックスティッシュから2枚をとって、いたずらっぽく笑ってる彼に手渡した。
「いまの会社、どうなの? 結衣みたいに、地元の方が都会パターン、のんびりできて良さそうだけど」
ナツメが私に尋ねる。言葉じりに迷いがあって、違和感のない話し方を模索しているみたいだった。
私もそれにつられて、口調を探す。私もたしかに、ナツメとの会話の仕方を忘れている。
「いや、車がないと何も出来なくて不便だよ。私、自転車好きだったのに」
私が自転車、と言うと、ナツメが懐かしい、という顔をした。
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