星星星

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まだ、私とナツメが一年生のとき。あれさ、はじめての学園祭のときだ。中庭のステージ作りを、一緒にやっていた。 私は先輩の指示で、雑巾で音響の卓を拭いていた。すると隣で、私が使ってる青いバケツの中の水をじいっと覗き込む、金色の髪の男の子が目に入った。 私はすこし、彼を観察した。妙なことに、彼は執拗にバケツの中身をずっと気にしていた。膝を曲げて、腰を深く落としたヤンキー座りで、バケツの水面をながめている。 私は彼の派手な髪色に見覚えがあった。 たしか、四月にあった新入生歓迎会で、話したような。 大学からギター始めたんだっけ、この人。名前、なんだっけ。 「それ、使っていい?」 わたしは汚れた雑巾を片手に、金色の男の子に声をかけた。 「あ、ベース上手い子だ」 ナツメは黒くて丸いピアスを耳たぶにぶら下げながら、私を見上げた。 それから、猫のように目を細め、訴えかけるように、私にまくし立てる。 「ねえ、先輩からバンド誘われてたよね? 一年生なのに、このステージ立つんでしょ。なんであんな上手いの? いつからやってるの? ギターより、ベースのが簡単?」 私は人の話を聞くのが嫌いなので、ナツメの質問を全部無視して、彼に尋ねた。 「なんでバケツの中見てたの?」 するとナツメは、ほれほれ、と言わんばかりの顔で、私の顔を見ながら、かたくなにバケツの中を指差した。 仕方がなく、私は彼の指す水たまりをのぞきこむ。 「ここに空が映ってるから」 晴天と一緒に、にんまり笑顔のナツメと、あほな目をした私の顔が写っていた。 「ああ、たしかに」 ナツメは満足げに頷く。 ナツメが素直に私の質問に答えたので、私も彼の質問の回答をする。 「ベースの方が、弦が4本で簡単かもしれないけど、でも、そしたら私とバンドは組めないね」 私は意地悪を口にした。 でも、ナツメは広い太陽を曇らせなかった。 「俺、結衣ちゃんとバンドしたいな」 そのときのナツメの顔が、あまりにキラキラしてた。 私はあやつられて空間を切り取られたみたいに、ナツメに見惚れた。 私はナツメのことが好きになった。
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