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ナツメも、人間関係下手の私といつも一緒にいてくれた。
私たちはお似合いカップルだと持て囃され、サークルのみんなから羨まれた。先輩からはセット商品扱い、後輩からはちやほやされて、二人一緒でいるのが当たり前だった。
ナツメは大学一年の春からギターをはじめた初心者だったけれど、私と同じステージに立ちたいと言って、いつもひたむきに楽器に取り組んでいた。
指板を抱きかかえるようにみつめて、慎重に指を運ぶ。ナツメはギターを弾くとき、あまり正面を向きたがらなかった。
それどころか、道を歩くのでも、授業を受けるのでも、しょっちゅう下を見ていた。
「ナツメはなんで、水たまりで空を見るかね」
それを不思議に思った大学生の私は、ナツメに尋ねた。
ナツメは金色の髪の毛で、反発するように答える。
「結衣はいっつも上を見ているよね。変だよ、あれ。ベースを弾くとき、指板を見ないんだ。いっつもうわの空でちがう歌を歌っている。なのに、音は正確なんだよね」
「ベースラインを口ずさんでいるんだよ、あれは」
ナツメの嫉妬は可愛げがあり、私はそれがいつも微笑ましかった。
「ナツメってさ、ギターを弾くときも、ずっと手元見てるし、道歩いてても下ばっかりみてるよね。空でも見上げれば?」
「だって、空って明るいじゃん。太陽って、直接見ると、目が潰れんだぜ」
「ギター弾くときくらい、オーディエンスいるんだからさ、下向くのやめなよ」
「嫌なんだよ。結衣が作る曲、難易度高すぎて、ライブに間に合わない。覚えられないし、テクニックもないし、みんな、初心者の俺じゃ実力不足だって思ってる。そういう目でステージを見てる」
「ナツメって、変なやつ」
私はふたたび笑った。ナツメはふてくされたように言う。
「でも、顔を上げなければ、現実を見なくて済むから」
私はナツメの頭を撫でた。彼はひねくれてるけど、いつもひたむき。
私はナツメの、整髪料なんかつけない、さらさらの髪の毛が好きだった。
あれ、私、なんでナツメと別れたんだっけ。
ああ、そうだ、私が就職して、遠距離になってから、半年も持たず喧嘩別れしたんだっけ。
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