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ナツメと目が合った途端に、私の頭の中心が、どかん、と爆発する。
その目から、ナツメの爆弾に火がついたのも分かった。
二人して、コンビニのコーヒーをにぎり、唇から、吐息を漏らしている。
「ホテル、行ってみる?」
ナツメが変なことを言った。
私はなにも答えなかった。
ただ黙ってシートベルトをしめ、エンジンをかけると、私はサイドブレーキを外して、車を走らせた。
「ねえ。いいの? わるいの? ねえ。ねえって、どこいくの。ねえ。行くの? ねえ」
ナツメはすがるように尋ねるけれど、私は自分の中の勢い付いた何かを言葉にすることはしなかった。
口を閉ざしたまま、私は大きな道路沿いにあるホテルに車を入れた。昔、二人でよく来た場所だ。
「だめだ、俺、ビール飲んでいい?」
ナツメは部屋に入った途端に、財布の中の小銭を漁り始めた。
「いいけど。ラブホテルの缶ビールなんて買うの?変なの。私、飲まないよ」
「こんな状況でシラフでいられるほうが、変だっつの」
学生の頃、一緒に来た時は、どんなに飲みたくても決して買わなかったというのに、社会人で玉の輿のナツメは、ホテルのバカ高いビールを迷いなく買った。
「ていうか、なんでギター持ってきたの。変でしょ」
ナツメは銀色の缶を片手に私を指差す。正確には、私の背中のギターケースを指している。
「だって、こっちは都会で物騒なんだから。こんな、お金になりそうなもの車の中置いてたら、私の車になにがあるかわからないでしょ」
私は、ナツメに指差されたギターを捨てるように、ソファに置いた。
婚約者のいる結婚目前の男性が、元カノとこんなところに。
そんな怪しい事例の目撃者である、この黒いケース。
ギターケースって、なんか不気味で、たまに人影と見間違えるんだよなあ。
ナツメの喉が五百ミリリットルのそれを飲み干すまで、私はベッドに横になって天井を仰いだ。
黄ばんでる。ライトがまぶしい。
カラオケルームに似たにおい。タバコを消臭した感じのにおい。
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