無題

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時計も携帯も持ち合わせていない。 なのでいつも待ち合わせ場所に着いたら、自分の脈拍で時間を計っている。 駅からは歩いて五分、だから待ち合わせまでは後十分。 少し長く感じるのは、脈拍が早い所為。 着替えの為に三時間待たされた事、仕事で遅くなって怒って先に帰られてしまったのにも関わらず一晩待ち惚けてしまった事。 結婚式での焦るほどにゆっくりとした歩み、陣痛で苦しんで痛いほど握られた手に待ち望んだ息子の顔。 全てを覚えているわけではないけれど、君の為に待った時間はきっとこの心臓に刻まれている。 今は。 随分と緩やかになってしまった脈拍に、機械音が途絶するのを聞く。 次の鼓動は永遠に刻まれないから、いくら待たされても平気だよ。 だから、君はもっとゆっくりおいで。
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