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司会役の芸人さんはまず私が普段どのようなパフォーマンスを行っているのかをクイズにしました。
それに他の芸人さんたちはいくつかふざけた解答をします。
セーラー服を着ていることから、学生○○という解答が多くありました。客席には大うけでした。私にとっては苦手な空気でした。けれど、場を盛り上げてくれることをありがたく思うのでした。
解答もでつくしたようで、司会役の芸人さんは解答を打ち切ると、それでは、といって、一歩後ろに下がり、よろしくお願いします、と私にパフォーマンスを促してくれました。
そして私はいつもの口上を、いつもの倍の気合で喋るのでした。
客席はドン引きです。芸人さんたちは苦笑いしていました。女優さんは驚きの表情を浮かべていました。
それからカッターを取り出したところで、悲鳴が上がりました。普段とは桁違いに過剰な悲鳴でした。少し芝居がかった客席の反応に、私の芝居もやや大袈裟になり、普段はしない、カッターを掲げてみせつける、という動作を加えてしまいます。
芸人さんたちの、いやいやいやいやちょっと待って、という儀礼的な静止の中、私は手首を切りつけました。
脆弱な一太刀ではあります。しかしそれだけで客席の悲鳴が、リアルなものに変化しました。
スパっと切れた傷口から鋭い痛みが襲ってきますが、高揚しているせいか、いつもよりも痛みを感じません。
私と同じ舞台に立つ芸人さんと女優も唖然としています。
ですが、私の手首からだらだらと血が流れていく様をみて、ある人は目を剥き、ある人は目を背け、ある人は舞台袖のスタッフに目を向けました。
周囲が落ち着くのを少しまって、それから私はいつも通り傷口を拭い、セロファンをはりました。そして舞台上の演者たち対して微笑んでみせました。
女優さんは異様なものをみる目を私に向けていましたが、芸人さんたちは流石のもので、不気味がりながらも、私に声をかけてくれます。そしていくつかの質問をしてくれました。
いつからこんなパフォーマンスを始めたのか? そのきっかけは? どれくらい儲かるのか?
芸人さんの中に、私のパフォーマンスとガマの油売りをリンクさせて考えてくれる人がおり、なんとなく伝統芸能的な扱いということにして収拾がつきそうでした。きっとそれ以外では放送の可能性を見出せなかったのでしょう。
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