怪我の功名、あるいは悪名

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「生きることに意味を見出せなくなったら人生終わりだよね!  ホント、不幸に生きるくらいなら死んだほうがマシだと思う。  あ、そこのおじさん、生きることに意味なんてない、だなんて甘ったるい言葉ならいらないよ。  死にたいと思っている人間に、生きる意味がない、だなんてアドバイスしたら、だったら死んでもいいじゃん、ってなるに決まってるじゃない。  生きる理由がなくても死ぬ理由ならいくらでもあるんだから。  六年間いじめられたい子が、自分はどこにいってもいじめられるんだ、思い込むのは自然な考え方だと思うんだよね。そんないじめられっ子に、生きる意味なんて存在しない、なんていうのは自殺を推奨しているようにしか思えない。ひょっとすると、そんな惨めな思いをするくらいなら、って追い詰められている人の背中をポン、と押してあげているのが、大人の優しさなのかな?  やっぱり、この先の自分の人生は、これからどんどん悪くなる、って考えに囚われてしまったらもう駄目なんだよ。  ここにいる皆はどうなのかな?  この先良くなる、って思ってるのかな? ひょっとするとそう思い込むことで自分を鼓舞しているのかな? 立派だね。うん。凄く大人って感じ。  でも残念。皆不幸になるの。少なくとも、こんな場所でお酒を飲んでいるような人には幸福な人生なんて絶対に訪れないから。  誰かを傷つけて、大切な人を失って、病期になって、ある日グダグダな終わり方で人生の幕引きをするの。これは人類が数千年前から積み重ねてきた経験。逃げられはしないよ。  じゃあ、お前はどうなんだ? って思うでしょ?  私。私はね、皆と同じ。良かったね。私もみんなの味方だよ。いや、味方、というよりも同類、かな。  だからどうせ無限に後退して降下いく人生なら、せめて散り際くらいは美しく、なんて考えちゃうんだよね。  でもさ、上手く自分の人生に幕引きすることなんてできそうにない。  人生のクライマックスなんてどこにあるかわからないんだから。終わりの知れないマラソンでラストスパートなんて無理でしょ? 終幕を引くタイミングの掴みようがないんだよね。  だからね、ほら、幕を引く代わりに、このカッターで線を引くの。  私の手首に、スッと、ね。ほら、どう? どう?  見て見て。引いた線から、真っ赤な血が腕を垂れて伝って、ほら、幕が落ちてきているみたいでしょ?」
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