怪我の功名、あるいは悪名

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 私はその場に倒れ込んでみせました。ちょっと演出としてやりすぎている気がしないでもないのだけど、なにせ初めてのお芝居ですから加減がわかりません。  周囲からは悲鳴とどよめきが聞こえてきました。近づいてくる足音で、駆け寄ってくる人がいるのもわかりました。あまりやっているとこのままでは警察なり救急車を呼ばれるかもしれない。  私が体を起こすと、再び悲鳴が上がりました。少し先にいた女性は幽霊でもみたような青ざめた顔をしていました。若干面白く感じていいました。  けれどここで笑ってしまえば台無しです。私は無表情を心がけながら、カッターを取り出したポケットから、今度はプラスチックの容器を取り出します。そしてその中身を傷口に塗りつけます。無論、中身とは加藤さんの会社のあの傷薬です。  それから、私はカバンから取り出したタオルで血を拭い、セロファンのようなテープで傷口を塞ぎ、そちらの腕を頭上に掲げました。 「いかがでしょうか。絶望した女の子のリストカットの傷も、こちらの商品ならご覧のように、すぐさま塞ぐことが可能です! 興味をお持ちのお客様は、気軽にお声かけくださいませ」  周囲のざわめきが、困惑の声に変わっていきました。冷静になるにつれて、私の行いの意味が皆に理解してもらえたようでした。  ほとんどの人が怒ったり、呆れたりしているようでした。  ですが実際に注意されることはありませんでした。なるほど。普通はこんな不気味な女に声をかけたりはしませんよね。  ただ、一部の人は笑っており、面白がってくれているようでした。  そんな物好きな人は私に声をかけてくれ、その上、商品を買ってくれるという人までいました。  私は料金を受け取ってから、カバンに詰めてあった傷薬を購入者に手早く渡していき、事が大事になる前にその場を引き上げ、加藤さんと合流し、車に乗せてもらいました。  車内の加藤さんは大興奮で、ちょっとやりすぎじゃないの、などといいながらも、満面の笑みを浮かべていました。  その日から、週に二度三度、同じ場所で同じようなことをして傷薬の実演販売を行いました。どうも加藤さんが話をつけてくれているようで、その辺の人にからかわれることはあっても、偉い人や怖い人から文句をつけられることは一度もありませんでした。  そしていつからか、私この町の名物パフォーマーということになっていました。
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