怪我の功名、あるいは悪名

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 傷薬の売り上げは右肩上がりでした。  観光客や飲み屋のお客さんが怖いもの見たさに集まって、おひねりがわりに傷薬を買っていってくれるのです。それから面白がってみにくる飲み屋のお姉さんなんかともお友達になり、時々お客さんになってもらえることもありました。  結果、ガマの油売りよろしく、私も見事、香具士の仲間入りを果たしてしまいました。  いかがわしく、やくざな商売で、これまでの平凡以下だった私の人生からは考えられないものではあります。けれど、私には天職のようでした。  これまで隠し続けてきたリストカットを人前で行う、というのはある種の快感を私にもたらしましていました。  そしてなにより、私の才能が発揮されているように感じられたのです。手首を切る前の口上はそれなりに好評、芝居も悪くないとのことで、私の口上を録音して繰り返し聞いている人までいるそうでした。  コンプレックスだらけの容姿も、いかにも自殺しそうな女子高生っぽい、らしく、芝居をリアルにしてくれているようでした。私は初めて自分の姿に誇りを感じました。  それに自分がだしたアイディアも上手く働いてくれるのです。  セロファンで傷口を塞ぐ、というのも私のアイディアでした。いくら浅く傷つけているとはいえ、流石にインチキ傷薬では塞げませんから、客前にいる間だけでも、血が止まっているように見せるため考案したその場しのぎです。そのあたりを説明することを私が面倒くさがったものですから、おそらく加藤さんはいまだに傷薬の効能を疑っていないことでしょう。自分で試すようなことをする人ではありませんし。  加藤さんとの関係も良好でした。上手くいっている間は、細かいことを気にしないでいてくれる彼女の性格のおかげでした。  そんな彼女から、深夜に突然電話がかかってきました。  とうとう警察から注意されたのかな、と身構えながら私はその電話にでました。  ですが興奮しきった彼女の口から語られたのは意外な内容でした。  どうやら私がテレビにでることになったようでした。
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