大舞台と台無し

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大舞台と台無し

 私が呼ばれたのは、各地の変わり種パフォーマーを集めて採点し、高評価なら賞金をだすという、深夜番組のワンコーナーでした。  手首を切るパフォーマンスなんて放送できるのか、という当然の疑問に対して、番組のスタッフの方は、ハプニングを望んでいるようで、とりあえずやるだけやってみて、駄目そうなら編集でカットするので大丈夫、と解答してくれました。  なにが大丈夫なのか見失いそうになる私でしたが、加藤さんが、とりあえずテレビに呼ばれた、というだけで満足な様子だったので、私もあまり考えないようにしました。  収録現場へは加藤さんと一緒にタクシーで向かいました。  スタジオに入ると、まず舞台が目につき、その前に客席としてパイプ椅子が並べられているのが見えました。深夜番組だけあって、普段私がテレビで見ているような豪華なセットではありませんでした。これには加藤さんも、隣で若干がっかりしているようでした。  ですが、私にとって、平凡以下を自称してきた私の人生に置いては、十分すぎるほどの舞台でした。一目みただけで、放送されるされないだなんていうことが、些末な問題に思えてしまったのです。  私があの舞台に立ってパフォーマンスをする。たったそれだけで私のこれからの人生は満ち足りたものになる、そんな楽観的なイメージを抱いてしまったのです。  しばらく舞台を眺めた後、私たちは控室へ通され、そこで出番まで待つように指示されました。  次第に客席が若い女性で埋まっていきます。そして番組が始まると、何組かのお笑い芸人とゲストの女優さんが舞台に上がりました。客席からは彼らに向けての歓声がなかなかやみませんでした。私も名前を知っている方々でした。ですが、待っている間の私には、その有名人たちさえ、私の前座のように思えたのです。  そして、とうとう私の出番が訪れます。スタッフの方に呼ばれ、もうすぐ出番であることを告げられました。私はいつもの商売道具を持って舞台袖へ向かいます。加藤さんから、頑張ってね、と声をかけられました。私は大きくうなずき、それから舞台上をじっと見据えました。  コーナーが始まり、私の名前が呼ばれました。  私はまず一歩、前に踏みだしました。
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