ベンチの真ん中

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ベンチの真ん中

 先月、勤めてた会社をリストラされた。  親はもういないから頼れる実家なんてないし、貯金は僅か。程なく底をつき、アパートも追い出されるだろう。  早くどこかへ再就職しないと。そう思っても、景気は回復してるなんて言うけれど嘘だらけで、どこ面接に行っても門前払い。取り合ってなどもらえない。  結果、自然と公園で時間を潰すようになった。  大手のスーパーとかにあるベンチの方が、涼しくて環境的にはいいんだけど、ああいう場所は常連のお年寄りが陣取っていて近寄りがたいんだ。  だから暑さを堪えて、一応樋掛にある公園のベンチに座っている。  そんな毎日の中で俺はとあることに気がついた。  ベンチに座った位置によって、見える世界が違うのだ。いや正確には、座る位置によって、そこから見える人達の違う感情を読み取れるのだ。  例えばベンチの左端に座ると、公園にいる人や公園の外を通る人の、ウキウキとした幸せの感情が流れ込んでくる。  右端は真逆で、辛いや悲しい気持ちが押し寄せる。  そして真ん中付近は、この世を恨んだり呪ったりする、怒りと憎しみが混ざったような意思が伝わってくる。  どうしてそんな現状が起きているのかは判らない。単に俺の気のせいかもしれない。  でも人の感情が伝わるようになってから、俺は気分で座る場所を変えるようにした。  こんな暮らしでも、少しは気持ちが楽になりたい時は左端へ。  辛いのは皆一緒だと、共感し合いたい時は右端へ。
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