序章

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どれ程、つまずけば たったひとつの小石にきづくのか 蹴られて磨り減ってしまった小石からは真っ赤な涙が流れているというのに   どれ程、みわたせば 眼前のともし火をつかむのか いまにも己れの鼻息で消えかかっているというのに どれ程、耳があれば 傷口から垣間見える鮮血の叫びが聞こえるのか もうからだはぼろぼろなのに どれ程、死ねば殺せば 償っても償いきれない過ちを犯したと気づくのか 悔いたところで亡者は還らぬのに どれ程、破れば壊せば 自らが悪魔に変貌したことを悔いるのか 悪魔の烙印は一生消えぬというのに 悪魔は人形劇を見せてくる 従順なマリオネットを 鋭く切れる強靭な糸で 劇場の外で気色の悪い笑みを浮かべながら いとも容易く巧妙に操っている 人形劇に賛美を示さなければ 強靭な糸はその者の喉を掻っ切って 紅と漆黒が支配する世界に引きずり込む 人形劇が終わり観客は拍手する 糸の刃先がこちらに向かないように 賞賛の嵐はやがて悪魔賛美曲を奏でて 人々は悪魔の従順なる下僕となり やがて身命までをも捧げるようになる そうなれば彼らもう人間ではない 皆が皆、悪魔に成り果てたのだ 万雷の拍手の下に 悪魔は神という大層な存在に成り遂せたのだ 忘れてはいけない 悪魔を神に仕立て上げたのは紛れもなく 観客であることを、私たちであることを 悪魔はそんな私たちに下劣な嘲笑を浮かべているのだ ひっそりと にんまりと 著者不詳『名もなき詩たち 一』第45頁より抜粋
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