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「深雪!」
声のした方を見ると、大きなカメラを持った見知らぬ男性が、驚いたように私を見ていた。
「すまない……君に良く似た人を知っていてね。それに、そのカメラも…」
少し寂しそうに話すその人の言葉に、嘘はないようだ。
「このカメラ。母の形見なんです」
男性の持つものよりもずっと古びたカメラを撫でながら、私は言った。
「10年前に亡くなるまで、母は毎年、ここで写真を撮っていました。私も毎年、母に連れられて、ここに来ていました」
「………その人は、どんな人?」
「明るくて良く笑う人でした。ずっと母と二人きりでしたけど、寂しいと思ったことがない程に」
にっこり笑う私とは対照的に、その人の目には涙は浮かんでいた。
「母は、いつも言っていました。『このカメラをくれた人が、私に撮る楽しさを教えてくれたのよ』と」
「………君のお母さんは、その人のことを、恨んではいなかったのかい?」
「全然。撮る楽しさを教えてくれた事に感謝してるって、いつも言っていました」
「そうか……良かった。深雪…」
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