第六章 ルア

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ハッと目が覚める。茶色い天井...ここは? バッと勢い良く体を起こす。 横を見るとルアが心配そうな顔でこちらを向いていた。 ああ、さっきのは夢か。まあよく考えてみればおかしい。あやとはキグシャクしたままだったし、私にお父さんはいないし。 「大丈夫?何度呼び掛けても起きないから心配しちゃった」ルアはもしかして...とこわばった顔をしてから、私に妙なことを尋ねてきた。 「ねえあなた名前は?」 名前? そっか、まだルアには言ってなかったっけ... 「私は支倉あかり」私は本名を名乗った。 「よかった.....」ルアはふーっと息をついてゆっくり微笑んだ。 「よかったってなに」 「ねえあかり!」 私が聞き返そうとするとルアは、質問を遮るように私の名前を呼んだ。 「今なら外見に行けるよ、行く?」 そうだ、思い出した。夜になったら外を見に行く予定だったっけ。じゃあ今は夜?窓がないからわからないや。 「うん、もちろん行く」私がそう言うと、ルアはもう一度聞いた。 「外.....見に行く?」ルアの声は少しかすれていた。 断った方がいいのかな。そんな雰囲気が漂う。でも、やっぱり...! 「うん、見に行く」危険かもしれない。でも好奇心は止められない。 「そう、じゃあついてきて」ルアは私がいるベッドの対角に行き、今まで羽織っていた茶色い布をバサッと床に落とした。一瞬目の前が点滅した。なにが起きたの? 瞬きをして、目を凝らす。 ルアの背中に、光っている何かがあった。 「羽.....?」私は恐る恐る尋ねた。ルアの背中には、真っ白な羽...いや翼がある。白鳥のような翼で、少し青がかっている。 綺麗だった。『美しい』という言葉が一番似合う。 「怖い?」ルアは不安そうに言った。 私はしばらく返事が出来なかった。翼にみとれていた。 「.....」ルアは何も言わずうつむいた。 「いい」私はその二文字を頑張って喉の奥から絞り出した。 「いい...?」ルアが聞き返す。 「綺麗...全然怖くないよ!私は好き!」私はベッドからおりて、ルアの方に近寄った。 「もっと見せて.....あっ...もっと見ていい?」私がそう聞くと、ルアは少し笑ってどうぞと言った。 「ほんとに綺麗.....もしかして飛べたりするの?」私は翼をまじまじと見つめながら何気なく言った。すると、ルアは一瞬ビクッとして、「右の翼の上」と言った。私は右の翼を見た。 「あっ.....」その瞬間、背筋が凍った。 そこには、見るに耐えない痛々しい傷があった。右の翼の上に何かで切り刻まれた痕がある。 「痛くはないの、でも飛べない」ルアは悲しそうに言った。 「ごめん!変なこと聞いた…」 すると、ルアは左足をあげてコンコンと床を叩いた。すぐ隣の床が沈み始め、下へと続く階段が現れた。 「さあ!外行こ!!ついてきて!」ルアが階段を降り始める。 階段…、でも今は一人じゃない。ルアがいる。私は少し恐怖を感じながら階段を降りた。
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