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「どうぞ、好きなようにしたまえ、警部補」
幹部らしいアフリカ系の男が、流暢な日本語に切り替えて言った。
「ただし、逮捕する前に、一度君の上司に相談することをお勧めするがね。――でないと、君の首がなくなるぞ」
「な、何だって!?」
「これは、親切心からの忠告だ。警部補」
アフリカ系の男が、唇の端を歪めて笑った。それを待っていたかのように、パトカーで待機中の若い巡査の声が聞こえた。
「警部補、本部長からです。至急、大事なお話があるそうです!」
「……!」
警部補が、慌てて無線にかじりつく。それを尻目に、男たちが車に歩み寄り、ドアを開けた。
運転手らしいスーツの男が、血だらけでハンドルに突っ伏している。そして後部の座席には、異形の物体がひとつ、置かれていた。
闇の中、胸に手を当てて、祈りを捧げる修道女の金の像(ピエタ)。――いや、髪の一本一本まで精密に表現されたそれは、生きている女がそのまま像と化したと言ったほうがふさわしかった。
破壊された車内で、かろうじてラジオだけが生きている。そこから聞こえるモーツァルトの「レクイエム」が、雨音に混じって、静かに車の外に流れ出してきた。
「シスター・ベルナドット、これは……」
「『機関』の長、シスター・テレジアの、最期のお姿です」
傍に立つ男の問いに、ベルナドットと呼ばれた女が静かに答えた。
「シスター・テレジアは、私たち同様、特別な能力をお持ちでした。手で触れたものすべてを金の像に変える、具現化能力『マイダスの女王(クィーン・マイダス)』。
――ご覧なさい、手の中に、機密情報のディスクがあります。シスター・テレジアは自分とディスクを物言わぬ像に変え、敵から機密を守り抜いたのです」
男たちが、思わず顔を逸らす。眉ひとつ動かさず像を見つめる修道女の目から、涙がひとしずく、こぼれ落ちた。
「安らかにお休みください。――死者の魂に、平安のあらんことを」
ベルナドットと呼ばれた修道女が、静かに十字を切った。そして、男たちのほうを振り向いて、毅然とした態度で命令した。
「前機関長シスター・テレジアは、殉職されました。総本部の命により、現時刻をもって私が『機関』の指揮を執ります。
そして、これが最初の命令です。――彼女を死に至らしめた犯人を探し出し、生死に関わらず、その身柄を確保するのです。よろしいですね?」
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