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(ち、ちょっと、いきなり外国人のメイドさん!?)
慌てた薫が、片言の英語で挨拶する。
「ハッ、ハロー!あ、あのう……プリーズ……」
「いらっしゃいませ、お客様」
流暢な日本語で挨拶すると、メイドの少女が落ち着いた声で尋ねた。
「『天馬堂』の間宮様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。私は屋敷の主人付きのメイドで、カーリン・シュトラウスと申します」
「は、はぁ……」
「主人は、いま別用で温室のほうにおります。ご足労をおかけして申し訳ありませんが、そちらまでお出でいただけますか?」
「お、温室に?」
「ご案内します」
カーリンと名乗ったメイドの少女が、先に立って歩き出した。
(カーリン……シュトラウス?
シュトラウス……どこかで聞いたような名前ね……)
取り止めのないことを考えながら木立の中を歩いていくと、視界の先にガラスのドームが見えてきた。
その入口まで来ると、カーリンが中に入るように促した。扉をくぐった薫は、驚きのあまり言葉を失った。
(す、すごい……)
温室の中は、五百坪はあるだろう広いガーデンになっていた。曲がりくねった小道に沿うように英国風の庭園が造られ、背丈の低い草花から二メートル近い低木まで、様々な植物が植えられている。
すでに外は薄暗いが、温室の中は照明が灯されていた。その柔らかい光の中、薫は小さなあずまやへと案内された。
いつの間に用意したのか、テーブルの上には白磁のティー・ポットが置かれ、淹れたばかりの紅茶が瑞々しい香りを漂わせていた。
「間もなく主人が参ります。しばらくお待ちください。」
メイドの少女が一礼して去り、薫はその場に取り残された。
柔らかな光の中で、ゆっくりと時間が過ぎていった。
(遅いなぁ……)
腕時計に目を落とすと、すでに十五分ほどが経過していた。ティー・カップの紅茶はすでに飲み終わって、ポットの中のものもすでに半分ほどになっている。
(もしかして、私、忘れられちゃったのかな……。こんな場所でトイレに行きたくなっても困るし、こっちからご主人を探しにいこうかしら……)
薫が、立ち上がって歩き出した。小道に沿って、無数の花やハーブが植えられている。その中を進んでいくと、やがて温室の中央部らしい場所にたどり着いた。
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