第二章 冬の旅 《Winterreise》

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 そこは、濃い緑の低木に覆われた場所だった。針のような不思議なかたちの葉に覆われた異国の植物が、神秘的な香りを漂わせている。 (何だろう、この木……。いい香りがするけど……)  ――その時、かすかに水音が聞こえた。茂みの向こうに人の気配がし、わずかに息遣いが感じられる。 (誰かいるのかしら……)  薫が、茂みの切れ目からそっと中を覗き込んだ。  ガーデン用のドームに薔薇が絡みつき、甘い香りを漂わせている。そしてその下には、湯を満たされた小さなバスタブが置かれていた。  そのバスタブに脚を浸して、心地よさそうに身を反らせている人影があった。  薫と同じくらいの年齢の、白人の少女。チュニック・ドレスの裾から伸びる輝くような脚が、バスタブの湯と戯れている。  髪は豊かな金髪で、襟足のところで優雅な形に編まれている。顔は鼻が高く彫りの深い顔立ちで、その容貌は明らかにヨーロッパ系の外国人であった。 (うわぁ、綺麗な子……。お祖父ちゃんの言っていた、お屋敷の英国の人かしら……)  長い睫毛に縁取られた眼を閉じて、少女は気持ちよさそうにカウチに横たわっていた。肌は透けるように白く、ドレスの下の乳房がゆるやかに起伏を繰り返している。  天使のようなその姿に、薫は時を忘れて見蕩れていた。 (……嫌だ、私、女の子に見蕩れるなんて……。どうしよう、起こしちゃ悪いし、かといってこのままだと覗きをしているようだし……。さっきの場所に戻ろうかな……)  そう思って、薫が背を向けた、その時だった。 「――お待ちなさい」  背後から、呼びかける声がした。 「私に用があって、ここへいらっしゃったんでしょう?」  優雅で、そして威厳を秘めた少女の声。振り向くと、身を起こした少女が薫をじっと見つめていた。  異国の海を思わせるような、澄んだブルーの瞳。吸い込まれてしまいそうな少女の目を見返しながら、どぎどきする胸を押さえて薫が言った。 「あっ、ご……ごめんなさい……。メイドさんから待っているように言われたんですけど、誰もいなかったものですから、つい歩き回ってしまって……」 「メイドから?」 「ええ、ご主人に品物を届けに来たんですけど……」 「ああ……」  少女が思い出したように声を上げ、うふふっ、と天使の羽を思わせる柔らかい声で笑った。
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