8人が本棚に入れています
本棚に追加
そこは、濃い緑の低木に覆われた場所だった。針のような不思議なかたちの葉に覆われた異国の植物が、神秘的な香りを漂わせている。
(何だろう、この木……。いい香りがするけど……)
――その時、かすかに水音が聞こえた。茂みの向こうに人の気配がし、わずかに息遣いが感じられる。
(誰かいるのかしら……)
薫が、茂みの切れ目からそっと中を覗き込んだ。
ガーデン用のドームに薔薇が絡みつき、甘い香りを漂わせている。そしてその下には、湯を満たされた小さなバスタブが置かれていた。
そのバスタブに脚を浸して、心地よさそうに身を反らせている人影があった。
薫と同じくらいの年齢の、白人の少女。チュニック・ドレスの裾から伸びる輝くような脚が、バスタブの湯と戯れている。
髪は豊かな金髪で、襟足のところで優雅な形に編まれている。顔は鼻が高く彫りの深い顔立ちで、その容貌は明らかにヨーロッパ系の外国人であった。
(うわぁ、綺麗な子……。お祖父ちゃんの言っていた、お屋敷の英国の人かしら……)
長い睫毛に縁取られた眼を閉じて、少女は気持ちよさそうにカウチに横たわっていた。肌は透けるように白く、ドレスの下の乳房がゆるやかに起伏を繰り返している。
天使のようなその姿に、薫は時を忘れて見蕩れていた。
(……嫌だ、私、女の子に見蕩れるなんて……。どうしよう、起こしちゃ悪いし、かといってこのままだと覗きをしているようだし……。さっきの場所に戻ろうかな……)
そう思って、薫が背を向けた、その時だった。
「――お待ちなさい」
背後から、呼びかける声がした。
「私に用があって、ここへいらっしゃったんでしょう?」
優雅で、そして威厳を秘めた少女の声。振り向くと、身を起こした少女が薫をじっと見つめていた。
異国の海を思わせるような、澄んだブルーの瞳。吸い込まれてしまいそうな少女の目を見返しながら、どぎどきする胸を押さえて薫が言った。
「あっ、ご……ごめんなさい……。メイドさんから待っているように言われたんですけど、誰もいなかったものですから、つい歩き回ってしまって……」
「メイドから?」
「ええ、ご主人に品物を届けに来たんですけど……」
「ああ……」
少女が思い出したように声を上げ、うふふっ、と天使の羽を思わせる柔らかい声で笑った。
最初のコメントを投稿しよう!