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そんなやり取りをしてメイドたちが屋敷に引き上げたあと、シャルロットが広い温室の中を示しながら言った。
「ここは、私の自慢のガーデンなのです。植えられているのは、もっぱらハーブと薔薇。薔薇もハーブの一種ですから、ここは丸ごとハーブ・ガーデンになっていると言っていいでしょう。
薫さん、あなた、ハーブはお好きでいらっしゃる?」
「ええ。興味はあるんですけど、あまり詳しくなくて……」
「そうですか。それでは少し、ハーブについてお話しましょうか。おいしいお茶を飲みながら、ね?」
その時、「お嬢様、よろしいでしょうか」と背後の茂みの中から女の声が聞こえた。声だけで、忍者のように姿はどこにも見えない。
「ああ、ベルナドット、ご苦労でしたね。いまお客様とお茶を楽しんでいたところです。あなたも一緒にお上がりなさい」
「は、恐れ入ります」
そう言って、薔薇の茂みから現れた人影に、薫は驚いた。それは、昨日商店街でぶつかった、あのシスターだった。
「あっ、あなたは!」
「あ、あの時の女の人!」
薫とシスター・ベルナドットが、同時に声を上げた。
「どうしたのです、ベルナドット?」
「この方です。私が運んでいたディスクを持ち去ったのは……」
答えながら、ベルナドットが血相を変えて薫に近づいてきた。石畳の上で、革靴がかつかつと緊張した音を立てる。
「ご、ごめんなさい!」
慌ててバックパックからディスクを取り出すと、薫はそれをベルナドットの前に差し出した。彼女が立ち止まり、手を伸ばしてゆっくりとそれをあらためる。
「ま、間違いない……。紛失した極秘情報のディスクだわ……。良かった……」
神よ、感謝します、とベルナドットが呟いた。そして、薫に視線を移すと、おずおずとシャルロットに質問した。
「……お嬢様、この方はどなたです?なぜ、ここにいらっしゃるのですか?」
「ああ、ベルナドット、あなたにも紹介しておきましょう。
出入りの刀剣商『天馬堂』の店主のお孫さん、間宮薫さんですよ。以前お父様から鑑定と研ぎを頼まれていた、骨董品の刀を持ってきてもらったのです」
「間宮……薫さんですか。もしかして、聖陵学園の生徒でいらっしゃる?」
「はい、三年生です」
「道理で……。ぶつかった時、学園の制服を着ていたようにお見受けしましたので……」
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