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ベルナドットが、そっと俯いた。――そして彼女がふたたび顔を上げた時、その目にはすべてを見通すような鋭い光が宿っていた。
「薫さん……と仰いましたね、あなた、このディスクの中を見ましたか?」
「え?」
ベルナドットの眼光にどきっとしながら、薫が言った。
「……い、いいえ、私はてっきり友達から借りたポップスのCDだと思ったんです。それがいきなり賛美歌に変わっていたんで、びっくりして……」
「聴いたのですか。それで、中身のファイルは?」
「見ていません。まだ自分のパソコンを持っていないので、見ようがなくて……」
「……」
ベルナドットが厳しい表情のまま、シャルロットに向き直った。
「……薫さんはこう仰っていますが、私はもう少し詳しく事情をお伺いしたいと思います。今からお屋敷のほうにお出でいただきたいのですが、よろしいですか?」
「それはいけません」
それまでの穏やかな態度から一転、ぴしゃりとした口調でシャルロットが言った。
「お控えなさい、ベルナドット。薫さんを尋問する積もりなら、それは認められません」
「しかし……」
「考えてもみなさい、あなたは彼女がディスクをすり替えたのではないかと疑っているようですが、それならば彼女はとうにこの町を出ているはずです。いま頃のこのこと私たちの前に姿を現すと思いますか?」
「は……それはそうですが……」
「彼女は身元のしっかりした、信用のできる人です。私が保証します」
「……分かりました」
ベルナドットの口調が改まった。
「お嬢様がそう仰るなら、私から申し上げることはございません。失礼致しました」
ふたりのやり取りを薫は驚きながら聞いていたが、ふと大事なことを思い出して、おずおずと口を開いた。
「あの……ベルナドットさんていいましたっけ。あなたの大事なディスクを間違って持ち帰ってしまって、どうもすみませんでした。……それで、私もお願いがあるんですけど……」
「何でしょう?」
「その、私が取り違えたCDを返してもらえますか。友だちから借りた、大事な物なので……」
ベルナドットが、ちらりと薫の顔を見た。その切れ長の目から、修道女らしからぬ艶やかさがこぼれ落ちる。
「――そうでしたね。自分のことばかり申し上げてすみませんでした。私もあなたの物を持ち帰ってしまったのですから、お互い様ですね」
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