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「で、では、ありがたくお伺いさせていただきます。ただ、私は昼まで勉強がありますので、午後からでもよろしいですか?」
「結構です。私も毎日三時まで執務があって、そのあとこのハーブ・ガーデンで休みを取っています。
そうですね、四時頃に来てもらえるかしら。一緒にガーデニングをして、美味しいお茶を飲みましょう。それだとちょうど午後の紅茶の時間になりますからね」
「ハイ・ティー?」
「夕食の前にお茶を楽しむ、英国人の習慣ですよ。私の故郷の英国では、女王陛下も一般市民も午後のお茶を楽しみます。そのくらい馴染み深い習慣なのですよ」
シャルロットが、淑女らしい微笑みを浮かべて言った。相槌を打ちながら、薫はいつの間にか外が真っ暗になっているのに気がついた。
「あ、いけない。そろそろお祖父ちゃんが帰ってくる時間だわ。
……シャルロットさん、すみませんが、今日はこれで失礼します。お茶やケーキをご馳走していただいて、どうもありがとうございました」
「こちらこそ、大したおもてなしもできずに失礼しました。……薫さん、明日も忘れずに来てくださいね。待っていますよ」
「はい、それではまた」
温室を飛び出すと、薫はやって来た道を急いで帰っていった。
「素敵なお嬢さんですね」
薫の背中を見送りながら、シャルロットが嬉しそうに言った。
「初めての日本。初めての友だち……。ふふ、今年の夏は楽しくなりそうですね」
「お嬢様、お言葉ではございますが」
それまで黙っていたベルナドットが口を開いた。
「日本にいらっしゃったばかりでお淋しいのは分かりますが、外部の人間をみだりにお近づけになるのは感心いたしません」
「ベルナドット、分かっているでしょう。私はいま、財団の用事がある時以外は屋敷から出られません。以前のようにお茶会を開くことすらできないのですよ」
シャルロットがしなを作りながら、拗ねるような口調で言った。
「それなのに、あなたは友だちとお茶を飲むことまでだめだと言うのですか?」
「い、いえ、私が申し上げたのは、そういう意味ではなくて……その……」
気まずそうに首を振り、沈黙したあとで、ベルナドットが諦めたような表情を浮かべた。
「……そうですね、それくらいなら構わないでしょう。『機関』のほうには、私からうまく説明しておきます」
「ありがとう、あなたならきっとそう言ってくれると思っていましたよ」
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