第三章 スカボロー・フェア 《Scaborough Fair》

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第三章 スカボロー・フェア 《Scaborough Fair》

七月二十一日    抜けるような青い空の下、一本の道がどこまでも伸びていた。  ひぐらしの声が響く、真夏の白い道。海岸線を南北に縦走する湾岸道路は、薫の家の前から学園前の三叉路までまっすぐに続いている。  舘須賀市の南側に位置する万里浜町は太平洋に面した町で、年中爽やかな海風が吹き、真夏でも内陸の街よりずっと過ごしやすい。   夏休みの二日目、薫はシャルロットに言われたとおり、午後四時ちょうどに温室に顔を出した。温室には、穏やかな午後の陽射しが降り注いでいる。  広いガーデンの中心部はドームが設けられた円形の空間になっており、そこを一メートル半ほどの高さの低木が取り巻いている。その真ん中に洒落たテーブルと椅子が備えられ、ドームに絡みついた薔薇の花が柔らかな芳香を漂わせていた。 「薫さん、私の可愛いハーブたちをご紹介しましょう」  お茶のあとで、待ちかねたようにシャルロットが薫に言った。 「このガーデンには二十種類ほどのハーブが植えられていますが、主だったものをいくつかお教えしますね。  ――まず、入口の周辺に植えられているのがミントです」。
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