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僕は強い。
そう信じていた。
将棋を始めたのは5歳の頃で、始めた理由は父に勧められたからだった。将棋が趣味だった父は昔はプロを目指していたらしい。
まったく、自分の挫折を子供で解消しようとしてんだなぁ。
そうは思いながらも、将棋は面白くて、僕はだんだんとそれにハマっていった。
小学校に上がると、タブレットで将棋アプリばかりやるようになった。
「少しは外で遊んだら」なんて母にはよく言われたが、どうせ運動神経は鈍いのだから、そんなのはつまんない。
小学校2年の時だ。僕は父に連れられて、将棋連盟主催の子供将棋大会に参加した。
「おまえは強い。頑張れ」
と、対局前に父が鼓舞してくれた。
「うん。僕は強いよ」
僕は得意になった。
慢心なのだろうけど、確かな自信でもあった。
実際に、どいつもみんな、僕の相手にはならなかったのだから。
僕は優勝し、そして僕は強いのだと確信した。
自分の強さが信じられると、なんだか将棋はますます楽しくなった。
次の大会にも参加。
そこでも優勝した。
するとプロの棋士から、「今度勉強会に来ないか」と誘いがかかった。三隅さんという七段の中堅のプロ棋士だ。
三隅さんは父の昔の知り合いで、実は父が口をきいてくれたのだとは後で知った。
僕は三隅さんに弟子入りすることになり、奨励会に入った。
奨励会というのは、いわゆるプロ棋士の養成機関だ。関東と関西にあって、そこで三段になると東西合わせての三段リーグに参加できる。
三段リーグで上位2位以内に入れれば昇段。
四段になれる。
四段から上がプロ棋士。
つまり奨励会というのは、プロになるための登竜門というわけだ。
僕はプロになるための第一歩を踏み出したんだ。
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