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奨励会の中でも、どうやら僕は強かった。
14歳を手前にして、三段リーグに上がることが決まった。
トントン拍子だ。
「逢坂はなんでプロになりたいの? やっぱりお父さんの夢を継いでとか、そういうことなのかな?」
昇段の日、ふと三隅さんがきいてきた。
僕は悩む。
あげくに、
「父さんの夢とかは、あんまり関係ないです。……なんでプロにかぁ。僕は将棋が強いから。……最年少記録とか、チャレンジしたいかな」
そんなふうに答えた。
三隅さんは少し顔をしかめて、
「……そうなんだ……」
と、頭をかく。
それから、
「お父さんはすごい棋士だったんだぞ」
と、言って笑った。
「でも、結局プロにはなれなかったんでしょう」
「なりたいからって、なれるんなら、誰も苦労はしないよ。お父さんは三段リーグで、総合してみたらすごい好成績だったんだよな。でも、あと一歩が続いて、それでプロには行けなかった」
「じゃあ、意味ないじゃん」
「……そうかな……」
三隅さんは笑ったまま、優しく僕の頭を撫でる。
そして、
「三段リーグ、頑張れよ。前期で昇段できたら、最年少プロ棋士の誕生だ。そうなったら、俺も師匠として鼻が高いよ」
と、続けた。
奨励会には、年齢制限がある。
26歳までに四段に上がらなければ、強制的に退会しなければならない。
父が制限ギリギリまで三段リーグで戦ったのだとは聞いていた。
諦めないで戦ったすごい人だと、三隅さんは言っていた。
僕にはわからない。
だって、僕は強いから。
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