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結局、持ち時間を使い切ったのは僕の方だった。
一度、全てをひっくり返されてしまえば、それまでに最善手だと思っていたものが全て悪手に変わる。
覆すのは簡単ではなくて。
終わってみれば、僕はボロボロにされていて。
「参りました」
その言葉が喉の手前で詰まったまま、僕は盤面を殴り飛ばしたくなる気持ちを必死になって抑えつけた。
脳みそが熱を帯びて麻痺している。
涙が止まらなかった。
もちろんこれまでも負けたことはある。
けれどそれは自分のミスだったりがほとんどだ。
次は勝てる。
これまでの負けにはそういう余裕があった。
けれど今回は違う。
完全なまでの読み負け。
それは圧倒的な実力差による負けだ。
まだ相手が三隅さんのような、百戦錬磨のプロ棋士だったなら納得できたのかもしれない。
けど、今目の前にいるのは僕と同い年の少年だ。
なんの言い訳もできない。
僕は強い。
こいつも強い。
そして最後まで強かったのは、こいつの方だった。
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