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「物語はほとんど原典のままだったんですけど、セリフ合わせの段階からめちゃくちゃな即興を入れてくるんですよ。台本では丁寧語の口調だったはずが、どういうわけか広島弁だらけの孫行者(そんぎょうじゃ)になってしまって。まるで任侠映画ですよ。ただ、あの珍道中と人情味は健在で、そのギャップがまた、ユミの仁(にん)に合ってたんですよね。それがおかしくて」
ついにはクラシックを逸脱し、任侠『西遊記』になってしまったのだという。罰当たりな戯作(げさく)というよりかは、若者にありがちな内輪の盛り上がりで行き着いた感がある。観てみたい気もするけれど。
この四人は『西遊記』一行のメインキャストでもあるらしい。アオイが玄奘三蔵、ナツミが猪八戒、カズエが沙悟浄だという。
ヒイカはあごに指を当て、んー、と記憶を遡った。幼いころに読んだ児童書の『西遊記』では主な登場人物はあとひとりいたはずだ。普段は三蔵法師の乗る白馬に化けているが、いざというとき人に化けて一行を助けようとする西海龍王の子。
「ひとり足りないね。龍太子はいないの?」
気のない質問になるはずが迂闊だった。なんとなく気まずい雰囲気が漂ったのだ。
カズエが答える。
「舞台にはいましたけど、ここにはいません。男の先輩ですから」
ふうん。そういうことか。
「そりゃあ、かわいい女子だけの旅に男はまずいか。兎と狼だ」
どろどろの下世話になりそうなので、ヒイカも深追いはしない。いかに知りたがりの性格だとしても分別は弁えている。馬に蹴られたくはない。
「私たちの話より、先輩たちの馴初めが聞きたいなあ。婚約してるんですよね。彼氏とはどこで知り合ったんですか?」
声高にアオイが尋ねたのは、男湯にいるミヤを意識してのゆえだろう。そういう媚態は好ましくないけれど、ここで会ったのも縁だ。話には乗ってあげようか。
「大学の図書館」
口調がつっけんどんになった。
大人気ないかな、とヒイカは自省するが、ミヤとの挿話は大抵〈バケ〉の話が絡むので心証に憚るくらいが妥当なのかもしれない。
「初めて見たあたしのフィアンセはね、図書館の隅っこで踊ってたんだ」
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