不器用に【*】

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 無理だなんだと言いながら喉の奥に声を隠す田波に息を吐き、史がベッドを揺らす。  部活に励む音に紛れて掠れた嬌声と熱を吐いていた2人は、ふと耳に届いた話し声に息を詰めた。  誰かが、保健室に来る。 「不在になってるじゃん」 「えー? でも保健室にいるって言ってなかった?」 「どこ言ったの、周ちゃん」 「……呼ばれてるけど、周ちゃん」  思わぬ呼ばれ方にくつくつ笑う史を、音や声を立てることを躊躇って唇を抑える田波がじろりと睨む。  随分と女生徒に懐かれているらしい。 「案外中で寝てたりして」 「えー? おーい、周ちゃーん?」  楽しそうな高い声が冗談のように扉をノックする。恐怖心にだろう、きゅうっと痛いほど甘えられた史は、扉を凝視する田波の体を浅く揺らした。
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