253人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほら、用事済んだらさっさと帰れ」
「……」
「なに。まだ何か?」
「……別に。バレないように出かけろよ」
艶の残る目を眇める田波に、史がベッと舌を出す。意味を理解して噛みつかれる前に保健室を出た史は、ベタつく体を見下ろすように目を伏せて息をついた。
まだぎこちない動きも、情事の香りを纏う目元もそのままに外に出ようなんて、馬鹿としか思えない。
「……なんで抱いたんだろ、俺」
まだ田波の体温が残っているように温かい手を見つめ、史が独り呟く。
田波の体に残る誰かの痕跡に苛立って、若気の至りとか嫌な大人みたいに言い逃れをする田波にも腹が立って、だから──。
「……馬鹿みてぇ。帰ろ」
どうせ今は感じていない気持ちを突き詰めても仕方がないと、史が扉から背を離す。
田波の代わりに自分が出ればよかったと気が付いたのは、家に帰り着いてからだった。
最初のコメントを投稿しよう!