距離感を【*】

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「……脅しって、なんだっけ」  ぱたりと携帯を持つ手をベッドに落とし、史は誰もいない広い部屋にぽつ、と声を響かせた。  父親が管理する学校の保健医と間違った関係になってから、どれだけ呼び出し、呼び出されてきたのか。  ふと気になって履歴を見た史は、画面の1ページ分を埋める田波の名前に、思わず眉根を寄せる。  理事長に、他の教師に、彼を慕う生徒に秘密をバラされたくなければ、その身体を差し出せと。そういう脅しで始まった関係だったはずなのだ。 「……はず、なんだけど……」  着信履歴を見る限り、ただの友人、もしくはセフレと化している気がしてならない。人を脅し慣れていない史の感覚でも、これはおかしいと分かる。  史から連絡するならいざ知らず、なぜ、田波の方から頻繁に連絡が来ているのだろうか。 「……暇してるとか? いやいや、あいつあれで教師だし。忙しいだろ、普通に」  田波からの連絡は、何も身体のことだけではない。  1日の終わりにふと電話が入って、今日の問題の復習はしているかとか、家ではどんな感じなんだとか。取り止めのない会話をして、終わることもある。
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