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「助かったよ。ありがとな」
「……別に。素通りも考えるくらい、楽しそうだったけど」
「楽しそうに見えてたなら何より。どう見てもチャラい奴にチャラいと評された気分が、うまく隠せてた証拠だ」
はは、と軽やかに笑う声はいくらか硬く、黒髪にきちんとスーツを着込んだ姿をそう評されたことがどれだけ気に入らなかったか、窺い知れる。
史は何も言わず、生ぬるい風に触れる胸元のボタンを閉めた。開けている方がどことなく暑い。
「あ」
「あ?」
校内用だろう運動靴の足が少しテンポを遅らせ、つられた史の歩幅も変わる。声に引かれて顔を上げれば、向かいから、いつかの女生徒が友人と歩いてくる姿が見えた。
ばちっと目が合う。彼女の方も気がついたようで、あ、と目を丸くし、迷うようにその視線を揺らした。
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