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「……さっさと行こうぜ」
史は自分に付き纏う噂を知っている。態度や見た目がそれに拍車をかけていることも分かっていて、改善しないようにしてきた。言わばこれは、目印だ。
田波の視線がそっぽを向く史の頬に刺さる。物言いたげなそれに気付かないふりをしていた史は、近付く足音に少しばかり緊張した。
下手な関わり方をしたせいで、気まずさが忘れられない。
「……、あのっ」
人気のない廊下に硬い声が響き、誰からともなく足音が止まる。高い声は明らかに女の子のもので、史はつい、視線を向けた。
「お、おはようございます……っ」
「……は」
他のどこでも聞けないような、硬く緊張したその言葉に、きょとんと史の目が瞬く。
みるみるうちに赤くなっていく彼女に、史は隣から肘で小突かれ、ようやく返す言葉を思い出した。
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