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講師の案内が回りくどかった。
手話通訳者が、気を利かせて“13時45分に集合です”と訳せばよかった。
周りの人間に、もう少し聾者への理解があればよかった。
でも俺だって、妹が聴覚障害という個性を持って生まれてこなければ、こんなことには気が付かなかった。
ほんの僅かなズレで摩擦が生じる。
言葉って、本当に難しい。
俺が立ち上がって、彼女は耳が聞こえないから、案内が悪かったからと声を上げればいいのだろうか。
彼女にとっての集合時間は過ぎていなかったと説明すればいいのだろうか。
俺の横に、すとんと座った彼女の横顔を盗み見る。
彼女はきっと、そのどれも望んではいない。
俺に出来ることは何もない。
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