108人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、パンツのサイズを知りたいから、採寸していいですか?」
変に白けた空気を壊すように、彼が明るい口調で言った。
「だから安静に…」
「座ってやりますから。」
無理に押し通されて、彼は近くにあった巻き尺を取り出すと、そのまま俺を近くに立たせ、何やらメモを取りながら採寸を始めた。
その1つ1つの仕草が繊細で、吸い込まれそうになる。
「でも、いいのか?俺は別にこのままでいいけど。」
「それは、僕があなたに自分の作った服を着て欲しいと思ったから、単なる僕のエゴです。付き合わせてごめんなさい。」
寂しげに、縋るように、微笑まれる。そんな風に言われたら断れないじゃないか、と思う。
「じゃあ、俺はまた経過見にくるから。」
「二週間後くらいに完成しますので、取りに来てください。
あ、家まで送りまっ…」
「じ っ と し て ろ 」
また立ち上がろうとする彼を、無理やり椅子に座らせる。
「またすぐくるよ。もしひどく痛んだりしたらここまで来い。じゃ。」
そう言って病院の住所と名前の書いた紙を書いて渡すと、店を出る。
「ノア・メイスフィールド…」
彼が俺の名を声に出したのが微かに聞こえた。
まだ夜は明けないな、と今度は前を向いて家へと歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!