ep1 孤独な夜とスーツのお店

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「あの、パンツのサイズを知りたいから、採寸していいですか?」 変に白けた空気を壊すように、彼が明るい口調で言った。 「だから安静に…」 「座ってやりますから。」 無理に押し通されて、彼は近くにあった巻き尺を取り出すと、そのまま俺を近くに立たせ、何やらメモを取りながら採寸を始めた。 その1つ1つの仕草が繊細で、吸い込まれそうになる。 「でも、いいのか?俺は別にこのままでいいけど。」 「それは、僕があなたに自分の作った服を着て欲しいと思ったから、単なる僕のエゴです。付き合わせてごめんなさい。」 寂しげに、縋るように、微笑まれる。そんな風に言われたら断れないじゃないか、と思う。 「じゃあ、俺はまた経過見にくるから。」 「二週間後くらいに完成しますので、取りに来てください。 あ、家まで送りまっ…」 「じ っ と し て ろ 」 また立ち上がろうとする彼を、無理やり椅子に座らせる。 「またすぐくるよ。もしひどく痛んだりしたらここまで来い。じゃ。」 そう言って病院の住所と名前の書いた紙を書いて渡すと、店を出る。 「ノア・メイスフィールド…」 彼が俺の名を声に出したのが微かに聞こえた。 まだ夜は明けないな、と今度は前を向いて家へと歩き出した。
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